【POOLOレポート】「私たちは本当の世界を知らない」【ゲスト:観光学者 鮫島卓先生】

みなさん、こんにちは!TABIPPO編集部の西嶋です。

今回は、10月30日にTABIPPOオフィス本社で行われた講義 「人生と社会をより良くする『ツーリズムイノベーション論』」の様子をレポートします。登壇者は、駒沢女子大 観光文化学類准教授の鮫島卓先生です。

 

登壇者は?

 

鮫島卓さん

旅人(世界70ヶ国)
駒沢女子大学 観光文化学類 准教授(観光経営学・観光マーケティング)
帝京大学 経済学部 観光経営学科 非常勤講師
一般社団法人 稲城市観光協会 会長
さめたく塾「旅の可能性を探求する観光学」公開講座 主宰 

1973年鹿児島県生まれ。立教大学大学院観光学研究科博士前期課程修了。世界70ヶ国を旅したバックパッカー。1996年H.I.S.入社後、エコツアー・スタディツアー・ユニバーサルツーリズムなどテーマ旅行総合プロデューサーとして数々のヒット商品を開発。「旅行」と「教育」を結合させたスタディツアーの取組みで観光庁長官賞受賞。モンゴル建国800周年記念事業実行委員会事務局長としてチンギス・ハーン騎馬隊1000騎を大草原で再現する日蒙合作の国際観光イベント「ユーラシアの祝祭」を堺屋太一氏らと企画実施。経営破綻したハウステンボス再生事業担当として初の黒字化に貢献するなどH.I.S.の数々の新規事業に関わり、成長を支える。ミャンマー・ブータンなど途上国でのJICA観光開発プロジェクトや日本各地での観光プロデュースを経て、2017年より現職。

 

研究者目線で切り取る「旅」

まず、鮫島先生のご経歴の紹介から。

鮫島先生は、駒沢女子大学観光文化学類の准教授でいらっしゃいます。ご専門は、観光経営学、観光マーケティング、経営戦略、イノベーション、創造的旅行者の研究。

研究の道に進まれるまでは、H.I.S.の社員だったそう。H.I.S.ではHISモンゴル建国800周年事業やハウステンボス再生事業を手掛けられたほか、テーマ旅行事業プロデューサーとしてご活躍されたり、スタディツアーで観光省庁官賞を受賞されたりしました。

現在は、駒沢女子大学の准教授の他に、帝京大学経済学部の非常勤講師、種子島大学アドバイザー、稲城市観光協会会長という顔もお持ちです。

「研究者なので、普段のPOOLOとは毛色の違う話になるかも」とおっしゃりつつ、学生時代から既に70か国以上を旅していると明かしてくださり、先生のことがぐっと身近に!先生の旅経験には、旅人であるみなさんも「すごすぎる!」「70か国!?」と驚きを隠せません(笑)。

「旅というものを改めて問い直すのが本日の趣旨です」と先生。「研究対象としての旅を紹介しつつ、旅の魅力を再確認してもらえたら」とお話しくださいました。

観光学にはさまざまな分野があるようですが、今回の講義では主に次の3つの問いを取り上げます。

・なぜ人は旅しようと思うのか?(観光心理学)
・ツーリズムは世界にどんな影響を与えるのか?(国際観光論)
・ツーリズムは人間にどんな影響を与えるのか?(観光経営学)

(どれもおもしろかったのですが、この記事では「ツーリズムは人間にどんな影響を与えるのか?」を紹介します!)

 

時代とともに変わる旅の目的

3つの問いについて考えていく前に、旅の歴史について教えていただきました。

旅のはじまりは、食糧や生活の場を求める、生きるためのものでした。その後、信仰からくる修行、巡礼、参拝のための旅が支配層を中心に行われるようになったそう。

日本では、平安時代の熊野詣が発端。室町時代以降はお伊勢参りがはじまり、江戸時代に街道や宿場町の整備が進み、庶民の間でも旅が広まりました。

庶民の間で旅が広まると同時に、「御師(おんし)」が誕生。参拝者の代わりに宿泊や参拝の手配を行っていました。今でいう旅行代理店ですね!また当時、参拝の証としてを「宮筒(みやけ)」という贈り物を配る習慣がありました。宮筒は土産(みやげ)のもとになったといわれています。当時の呼び方が残っているんですね。

17世紀ごろには英国の貴族の若者が欧州の歴史文化・ルネサンスを学ぶための旅「グランドツアー」に出かけるようになりました。こちらは、修学旅行の原型といわれているそうです。なんて豪華な修学旅行!

時代が下るにつれ、自分の楽しみのための旅行が生まれてきます。英国で旅行業のトーマス・クック社がパッケージツアーを考案し、ツーリズムが大量化・大衆化(民主化)。馬車でなく蒸気機関車が移動手段となったことで、たくさんの人を安価で輸送できるようになったのです。

世界一周旅行という概念や、トラベラーズチェックを考案したのもこのトーマス・クック社です。つい先々月、9月に破産申請を行ったことがニュースになっていましたよね。

このパートのまとめは、「旅の目的は、時代とともに多面的に変化している」です。

 

ワーク「あなたの旅のスタイルはどれ?」

ここでワークを。「旅スタイル診断」として、会場のみなさんに次の10の質問に「YES or NO」で答えてもらいました。

・プライベートで自分のお金で1年に必ず1回以上は海外旅行に行く
・1週間以上の比較的長期間の旅行をする
・非日常的なあまり開発されていない旅行先を好む
・不便で簡素な宿泊施設であっても受け入れる
・現地の習慣や活動に関心があり、有名なものや観光客向けの行動を避ける
・海外旅行では団体旅行より個人旅行を好む
・本物志向で、生産地にこだわり、現地ならではのモノを購入する
・旅行中は活動的であり、起きている時間は、現地の探検や学習に使う
・以前訪れた場所に戻るより、新しい場所を探す
・多少の失敗も厭わず、できるだけ新しい体験を追求したい

以上の10の質問のうち、自分の旅に該当するものがいくつあるかを数えます。「YES」の数をスマホで投票してもらい、その結果を見てみることに。

結果、9つ以上の方が31%でした。先生いわく、「9つ以上の方がの割合が高いですね!さすがPOOLO!」とのこと。

【3つ以下のあなたは、現代の徳川家康(サイコセントリック型)】
このタイプは、人気ブランドなど、周りが評価するものや権威ある数字を信頼します。他人にあまり多くを要求せず、協調を好む傾向にあります。友人や家族に囲まれて過ごすのが好きで、ルーティンを大切にするタイプ。

【9つ以上のあなたは、現代のマルコ・ポーロ(アロセントリック型)】
このタイプは、好奇心が旺盛で新しいもの好き。自分に自信があり、権威のある数字よりも自分の決断を信頼します。好きな言葉は進化と挑戦で、ひとりでいることも厭わない傾向にあるタイプです。

いかがでしたか?
研究では、性格が旅行先の選定にも関係するという仮説があるそう。マルコ・ポーロタイプがまだ行ったことのない比較的マイナーな旅行先を好む一方で、家康タイプは好きな場所に繰り返し通い、口コミを重視する傾向にあるとのこと。

 

「ツーリズムは人間にどんな影響を与えるのか?」

この問いを考えていく前に、先生からみなさんに問いかけられたのは「旅によってどんないいことがありましたか?」「旅はあなたをどう変えてくれましたか?」ということ。

みなさんから出た答えを一部ご紹介します。
・関心の幅が広がり、新しい本を手に取った
・精神的な余裕が生まれ、何が起こっても許容できるようになった
・日常への感謝が生まれた
・人との違いを楽しめるようになった
・感性が豊かになった
・普段いる場所から離れることで、自分自身と対話することができた

先生はまた、みなさんに問いかけます。

「あなたが今着ている服がどこで作られたのか、誰が作ってくれたのか、即答できる人はいますか?」

もちろん、誰も答えられません。

「きっと日本じゃないどこかで作られた服を着ているのではないでしょうか。クリックひとつでモノが手に入る現代は、生産する人と消費する人が分断している不幸な時代。世界と自分のつながりがわかりにくくなっています」と先生。

次に「手元のスマホで、福島とFUKUSHIMAを画像検索してみて」。

「福島」と日本語で検索して表示されたのは、地図や観光地の画像。

「FUKUSHIMA」とローマ字で検索すると、福島第一原発の画像ばかり表示されました。

「私たちの生活と切っても切り離せないインターネット。では、インターネットを通して見ている世界は、“本当の世界”でしょうか?」

「外国人は、FUKUSHIMAと検索して出てくる画像を見て、福島のことを理解しています。インターネットのアルゴリズムは、そこにあるものをそのまま反映するのではなく、みんなが見たいものを表示する仕組みです。世界を見る手段として、インターネットは万能ではなく、何かしらのバイアスがかかっていることを知ってください」

このパートのまとめは、「私たちは本当の世界を知らない」です。

 

ツーリズムとジェネリックスキルの関係


ジェネリックスキルとは、コミュニケーション能力や問題解決能力など、どんなときも役立つ汎用的な能力のこと。「社会人基礎力」とも呼ばれます。

研究成果によると、旅行経験が多くなるとジェネリックスキルが高まる傾向にあることが明らかになっているそう。また、「自主的に企画した個人旅行のほうがパッケージツアーよりもジェネリックスキルの向上に役立つこと」「旅行前&旅行後の学習や振り返りがジェネリックスキルを高めてくれること」もわかっているそうです。旅人として、うれしい事実ですね!

世の中に生まれる新しいサービス(イノベーション)には旅がかかわっていることが多いというのも、うれしい話題でした。セブンイレブンやスターバックス、ドトールの誕生の過程で、経営者や開発担当者が旅行先でアイデアのタネを見つけたことは広く知られていますよね。

とはいえ、旅に出たからといって必ずしもイノベーションが起きるわけではありません。鮫島先生は、旅でイノベーションを起こすための5つのステップを下記の通り教えてくださいました。次回の旅から意識してみてはいかがでしょうか?

【旅行前】
step1:模倣の心構えを万全にする
step2:自ら現状を分析し、知の探索をする

【旅行中】
step3:対象に棲み込み、背景まで探索する

【旅行後】
step4:理想と現実のギャップを逆算する
step5:変革を実行する

 

最後にお知らせ!

鮫島先生は、11月27日の旅大学にもご登場予定です。ぜひチェックしてみてください!

「旅の可能性を探求する観光学」始まりました!11/27(水)19:30~

Text:西嶋結
Photo:栗原秋紀子